さあ、第一回目のはじまりはじまりです。この連載は、ホームページを作成するずっと前から企画だけは進んでいました。が、記念すべき第一回目はどこの町のネタにするか、タイトルはどうするか、どんなふうに展開していくかなどなど……馴染み深い大阪をテーマにしているということもあり、なかなか焦点が定まらず、題材さえも決定に至らない状況でした。それが、イラストレーターの内橋女史とウンウン唸りながら度々の打ち合わせを重ねていくうち、ある日降って湧いたように二人して大納得のタイトルが決定! 貴重な画像提供によってイラストもいい具合いに仕上がり、方々の情報から原稿も具だくさんにまとまって、秋祭が終わる頃、ようやく完成したのでございます。
予告させていただいたとおり、第一回目は 「神様シリーズ」で幕を開けることに!ということで、私が密かに「神」と崇めている、ある町の“太鼓名人”について、しばし熱くるしく語りたいと思います。
はじめに……大阪で“だんじり”というと、岸和田のあのコテンパンに走りまくる祭を思い浮かべますよね。でも、岸和田以外にもだんじり祭は大阪のあらゆる場所で行なわれていて、だんじりそのものの彫りモンや形状はもちろん、曳行の仕方やお囃子の雰囲気にもかなり差異があったりするわけで、ウンタラカンタラ……そのあたりのマニアックな話題は喰いつき度に温度差が出てきそうなのでさておき。まずは大阪市内のだんじりのお囃子に重きを置いた話題から触れていこうと思います。
だんじりの保存会や太鼓チームは、大阪市内各所に多く存在していて、夏や秋の祭時期ともなると、そこら中でだんじり囃子が打ち鳴らされます。一般的には大阪天満宮で行なわれる天神祭で耳にするあのお囃子、♪チキチンチキチン、コンコン!で、ピコン!と来る方が多いと思います。
天満宮はだんじり囃子を披露するには、日本三大祭のひとつが行なわれる神社ともあって、まさにミュージシャンの東京ドームのようなステージであるといっても過言ではないかと……当然ここでお囃子を奉納されている皆さんの技術レベルが著しく高いことは言うまでもありません。
立派な三つ屋根のだんじりに、堂々たる風情をたたえたきらびやかな舞台。その圧倒的な様相にただならぬオーラをひしひしと感じつつ、お囃子のウンチクを語るどこかの町の若い衆のそばで、毎夏私は一人グツグツとテンションを高ぶらせています。ここまでのクダリで私が相当“お熱”になっていることが大バレしてしまったと思いますが……それでも、天満宮のだんじりやお囃子が祭人のあいだで特別な目を向けられているのも事実。毎年、大阪中の祭好き、だんじり囃子好きがこぞって集まって来るのは、もはや夏の定番、お約束なのであります。
……ここでようやく本題! 今回私が紹介させていただきたいのは、天満宮でだんじり囃子を叩いている、その道の神様と言える太鼓名人です。
いまでこそ、その方の出番を見ることが難しくなってしまいましたが、だんじり囃子を昔から熱心に続けている人ならば、その存在を知らないなんてことはないはず。私のような新参者でさえも神と崇めるその太鼓名人は、御年なんと82歳。もちろんいまだ現役です。小柄なボディながら、奏でられるのはまさに暴れ太鼓。全身のエネルギーを漲らせて叩く姿に、いつの間にか瞬きも忘れて見入ってしまい、気がつけば目玉がカスッカスになるほど釘付けになってしまう有り様……。
だんじり囃子というのは、基本的にだんじりの狭苦しい空間に、鉦と小太鼓と大太鼓の演奏者がかたまって座り打ち鳴らします。身体を自在に動かして演奏できるような環境では決してありません(イベントなどのステージで叩くようなケースは例外ですが)。そこで激しく、勇壮に、迫力ある太鼓演奏をするのは、脱水状態必至の超過酷な条件下にあり、同時に高度な技術力を要することをイメージしていただきたいと思います。
ある体格のいい太鼓打ちの若い衆が昔言っていたのですが、だんじり囃子の太鼓というのはスポーツとして考えると、そのハードさは野球やサッカーにも負けず劣らず、相当なパワーを要するものだと!とくに座って叩くスタイルなので、ひょっとしたらある意味、一番ハードなスポーツかもしれないとも言っていました。
宙をうねり舞い上がる、龍の太い胴のように。
若い太鼓打ちでもなかなかハードで難しいだんじり囃子。それを80歳を超え、いまもなお力強く打ち鳴らすというのは、素晴らしき奇跡と言えます。それも、人の心を魅了するだんじり囃子であり、そこには何とも味わい深い特有の“響き”が息づいているのです。それは、私が小さい頃に触れた大阪の町にも似ているような気がします。賑やかでキラキラしていて、ちょっとやんちゃでドキドキするけど、イヤな怖さのない繁華街。迫力のあるネオン街でありながら、人情味にあふれたあたたかな町並み。このたとえはちょっと、というかだいぶんわかりにくいかもしれませんけど……とにかく!太鼓の技術的なことだけでなく、カリスマ性やお人柄みたいなものもお囃子の音色に反映されているのが伺えるのです。だからこそ、魅力的であり、40代、50代のベテラン世代だけでなく、10代、20代の若い太鼓打ちにまでも大きな影響を与え、世代を超えてその流れが受け継がれているのでしょう。
そんな神様の太鼓に憧れて何十年という人の話によれば、叩き方だけでなく、“独自の流儀”のようなものまで真似た、と言います。
「太鼓の前にチョコンと座ったら、それから太鼓の位置をいじったり、フチを触ってみたり。そうかと思えば座布団を整えて座り直したりして、なっかなか叩き始めはらへんねん。そんなことまで若い頃は皆でよう真似してたなぁ。その一連の動きを“◯◯さんごっこ”って言うて楽しんでたわ」。
なるほど〜〜。憧れの存在がやることなすこと、真似してなりきる感覚は、女子も男子も、子供も大人も皆一緒なのですね。でも、これって、イメージトレーニング的にとても重要なことかもしれません。神様におかれましては、太鼓に向かうための大切な準備というか、ちょっとした儀式なのかもしれないなと思ったりもします。何にせよ、大切に、きちんと、太鼓に向かわれる様子を想像するだけでも、私としてはグッとくるものがあるのですが……!
さらに、表情も素晴らしいの一言です。まず、ちっともしんどそうじゃなくて、ニコニコと余裕で。その風情がまたたまらなくカッコよいのです。それだけではなく、演奏中にちょいちょい叩いている人のほうに視線をやって笑いかけたりもされます(それは、ベテランの歌手がデュエットするときに相手の顔をグイグイ見つめ、語りかけるように唄うあの感じとほんのちょっと似ているような……)。
また、ときには鉦の人の肩をバチで軽く叩いてみたり……小太鼓や鉦の人たちも楽しんで叩けるよう促されているのでしょう(ご自身もとても楽しそうなのですが、叩いている人たちまでも盛り上げようするその余裕……シブすぎる!)。
視覚的にだけではなく、耳やカラダ全体で感動することもたくさんありました。大太鼓が盛り上がるところで、何も合図がなくても、小太鼓や鉦の人たちも徐々にボリュームアップしていき、やがてその音色が三位一体となって囃子全体をクライマックスに導いていく……それはまるで龍の太い胴体が宙をうねりながら舞い上がっていく様を思わせるようでした。
そんなとき、囃子が五臓六腑ににドン!とぶつかるように押し迫ってきて、全身にゾワゾワと鳥肌が立ち、一瞬プルプルッと震えまで走るのです。真夏でも、本当に半分寒くなるくらい。そんなちょっと不思議な感動は、私の度を超した憧れから生まれくるのかもしれません。
リズミカルで楽しくてポップで、でも男っぽくて勇ましい、神様の太鼓。
これからの太鼓打ちの未来のためにも、まだまだまだまだお元気で頑張っていただきたい、と願うのは私以外にも数知れず……。若い太鼓打ちの中には、もっと昔から知っておきたかった!という人も大勢います。
そういえば、この夏からお孫さんも太鼓を叩き始めたということを、同じくだんじり囃子をガッツリやっておられる息子さんから聞きました。彼曰く、やはり血は争えず、なかなか天才的な可能性を秘めていると……。
そうした若い世代の皆さんが頑張っていかれることで、これからの“だんじり囃子業界”にも、新しい旋風が巻き起こるかもしれません。それでも、神様には退かれることなく一線で活躍していただきたいと、やっぱり徹底的にお願いしたい衝動に駆られます。
そして、太鼓やお囃子に興味のある人ならば、一度は見ていただきたいです。
太鼓のことをあまり知らない人でも、きっと引きこまれて忘我の境に入ってしまうはず。私の激アツな惚れっぷりも少しは理解していただけるかと……。
皆さんも、来年あたり天満宮のほか、城東区の蒲生や今福の夏祭と秋祭で勇壮な太鼓を打ち鳴らす神様の艶姿に、運が良ければ遭遇することができるかもしれません。が、……来年まで待ちきれない方のために、“THE自己満ダイジェストムービー”の制作準備をいま着々と進めています( 気長にお待ちいただければ幸いです <(_ _)> )。
その前に次回、シリーズ第二弾!では、「だんじり囃子の踊り方の神様」について、またまた熱くるしくお届けします!
11月2日(日)、3日(祝) 10:00〜16:30
大阪城で20台以上のだんじりが集結するイベントがあります。神様のスピリットを受け継いだ太鼓打ちのお囃子が聴けるかも!
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