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01 シリーズ第一回目は、「Fuuyaan展’09」のインタビュー&ルポ!
ふうやんインタビュー(Fuuyaan展’09を振り返って)

'09年春より沖縄県は西表島に移り住んだfuuyaan.(ふうやん)という画家がいる。彼女は昨年、冬の京都に舞い戻り、3年ぶりの個展を開いた。
会場となったのは、夏の送り火でも有名な大文字山のふもとに静かにたたずむ、築100年の大きな古民家。通称「山崎さんち」。一般に「ギャラリー」と呼ばれるようなスペースではないこの場所をfuuyaan.が会場として選んだことに、まず興味が湧いてきた。
そして西表島のこと。マングローブにヤマネコ、サンゴ礁の海……東洋のガラパゴスとも称される大自然の島での暮らしは、fuuyaan.の絵と彼女自身にどのような変化をもたらしたのだろうか。
2009年11月の中旬より、ひと月余りに渡って催された『Fuuyaan展'09』から一年。再び京都に戻ったアーティストfuuyaan.に、会場となった「山崎さんち」のこたつで暖まりながら、昨年の個展を振り返るべく話を聞いた。

このお家が私を呼んでくれたのかも。

Q. 『Fuuyaan展'09』は、約一ヶ月という長い会期で行なわれましたが、fuuyaanさんらしく、"よい意味で自分のペースを崩さない、そしてお客さんをとても大切にする展覧会"という印象を受けました。この会場の、まさにアットホームな雰囲気も手伝ってか、絵を見に来てくれた方一人ひとりと楽しげに言葉を交わすfuuyaanさんの姿もまた印象的でした。
さて、今日はそんな「Fuuyaan展'09」について、それからfuuyaan.さんが暮らし、また作品にも描いておられる西表島という場所についても、お話を聞かせていただければ、と考えています。
とくに私が面白いなと感じたのは、この「山崎さんち」を会場に選ばれたことです。ごく一般的に「ギャラリー」と呼ばれるようなスペースではなく、この場所で個展を行なわれたのはどうしてですか?


A.西表に行ってからどんどん新しい絵が生まれてきたので、京都に戻ってくる冬の間に個展を開きたいと考えていたんです。
そこで、しっくりくるギャラリーを探していました。そんなある日、京都に戻ることをひできさん(山崎ひできさん。「山崎さんち」の家主)にメールで連絡しているときに、このお家の土間の風景が頭に浮かんできて、「あ!あのスペース使える!」と閃いたんです。
このお家の漆喰の壁という壁は、全部ひできさんが丁寧に塗り直していて素朴な味があるんです。その白い壁と私の絵と、そこに訪れる人たちのイメージが湧いてきました。その瞬間に決定というか、自分の中でスイッチがぽんっと入ったような感じで、あとは迷わなかったです。
"朝起きたらすぐ会場"、というのも、寝坊すけの私には大きな魅力でした(笑)。


Q. 確かに起きてすぐ、会場でしたね(笑)。
しかし本当に一瞬の閃きでプランが一気に決まってしまうというのは、まさにアーティストさんらしいエピソードですね。


A. このお家でやりたい!という気持ちが自然に芽生えてきて、閃いた瞬間からシンプルにその気持ちに動かされてきたような感じがします。
もともと私もこのご近所に住んでいて、ひできさんと顔見知りだったこともあって、一昨年の夏からはこのお家の離れをアトリエとしてお借りし始めました。それで個展をこの場所でさせていただけたというのは、もちろんひできさんの快い承諾なしには実現しなかったことではあるのだけれど、何か私の感覚としては、水が流れるようにとても自然なことのようにも感じています。


そうそう、個展の準備をしているとき母が床を磨いてくれていて、どんどん床が輝き出し始めてね。このお家は磨けば磨くほどかっこよくなるということに感動したんです。
このお家を建てた職人さんは丈夫で長持ちする木材をちゃんと吟味して選んで建ててくれた。だからいまもこんなに素晴らしい空間が存在するんだ、ということに、本当にありがとうー!!って思います。


Q. 職人さんに感謝ですね。このお家がこの場所に100年という長い長い年月を経て、しっかりと建っていたということを改めて考えると、それ自体、実はひじょうに驚くべきことですよね。
また、fuuyaan.さんが「水が流れるように自然なこと」という言葉で表現されたように、ひできさんを通じて素敵なお家と出会い個展を開催するに至った、この一つの流れにも何かストーリーというか、不思議な……


A. 縁?……縁でしょうね。


Q. 目に見えない不思議な力を、「縁」を感じてしまいますね。


A. そうですね。そういう流れを大事にしたいと思っています。閃いて、その流れを見つけることができたら、あとは逆らわないこと。いろいろ考えてぐるぐる回っているうちに逃してしまったら、もったいないので。
昨年も「あ!」と閃いて、漆喰の壁に絵を飾って個展をしているイメージが湧いてきたから、そのあと私はそれに向かって動くだけでした。でも、そのイメージって私の閃きではなくって、実はこのお家が送ってきてくれたものかもしれません。このお家が私を呼んでくれたのかもしれませんね。


Q. お家が呼んでくれた。これは本当に物語になりそうです。このお家もfuuyaan.さんの個展を一度やってみたかったんでしょうね。


A. お招きありがとう(笑)。

与えたい。与え合うのが気持ちいい。

ところでもう一点、『Fuuyaan展'09』が本当に個性的だなぁと感じたのは、「物々交換で絵を購入することができる」というシステムになっていたところです。どういった理由、どういった思いから、そのような方法をとられたのですか?


A. 正確にいうと物でなくてもかまわないんです。得意な唄を歌ってもらってもいいし、その人ができることで交換してもらう……「できること交換」です。もっと過去の個展でも、できること交換で絵をお譲りしていたことがあって、一番印象に残っているのは絵をお送りした方からお返しにサトイモが届いたこと。まだ土がついている採れたてのおっきなサトイモで、箱を開けたとたん、畑のにおいが広がってきて、あのときはうれしかったなぁ……。
実をいうと昨年の個展で、初めは絵に値段をつけていました。それを「できること交換」にすることにしたのは、ある二つのきっかけからなんです。一つは、個展の何日目かにロビンさんというお友達(※注2)が新しくつくったCDを持って訪ねて来てくれたときのことでした。私がCDの代金を渡そうとしたら、「いやいや!お金はいらない。ほしいという気持ちがうれしいから、これはプレゼント!」と言ってくれて。その出来事が、うれしいショックというか、そのあともしばらく心の中に引っかかっていました。
それと、もう一つのきっかけになったのは、以前友人が忘れていったサティシュ・クマールさん(※注3)という方の本。この方の言葉を読んでいると、みんながお互いをつぶし合うような社会ではなく、与えよう与え合おうとする社会を目指していると感じるんです。その本を読んでいて、「私も与えるものを与えたい。それでほしいという人のできることで与えてもらうのが気持ちいいな」ということを実感しました。それで「できること交換」に途中で変えることにしたんです。


でも、そうすることで逆に困る人もいらっしゃるんですね。何年か前の個展で、「お金で払いたいので、いくらか言ってください」と言われて、値段をあとからつけてお譲りしたことがありました。そのときは少しびっくりしたんですが、お金も一つのギフトだから、お金で交換するほうが交換しやすいのであれば、そのほうがよいとわかり、現金でも物々交換でも買っていただくことができるかたちになりました。


※ 注2 : ロビン・ロイドさん。京都在住の音楽アーティスト。カリンバやジャンベ、尺八(!)まで、世界各国の様々な民族楽器を操るマルチ・プレーヤー。お寺やカフェ・スペースなど、コンサートホールにとどまらない様々な場での演奏イベントや、老若男女問わず幅広い層の人々とのワークショップ,鴨川の河岸で年に数回開かれる「カリンバ・ピクニック」と、活動は全国におよぶ。


※注3 : サティシュ・クマールSatish Kumarさん(1936~)。インド出身、現在イギリスを拠点に世界的に活動する思想家。9歳でジャイナ教の修行僧となり、18歳で還俗。マハトマ・ガンディーの非暴力と自立の思想に共鳴し、2年半かけて核大国の首脳に核兵器の放棄を説く14000kmの平和巡礼を行なう。1973年より英国に定住。シューマッハー(『スモール・イズ・ビューティフル』著者)とガンディーの思想を引き継ぎ、イギリス南西部にスモール・スクールとシューマッハー・カレッジを創設。エコロジー&スピリチュアル雑誌「リサージェンス」編集長。fuuyaan.が読んだ本は、"You Are, Therefore, I Am: A Declaration of Dependence"邦訳『君あり、故に我あり―依存の宣言』(講談社)。

 


Q. なるほど。fuuyaan.さんご自身にとって気持ちのよい関係のあり方と、外側とのギャップの間に丁度よい距離感をつかんでいく過程で、そういうやり方が出来上がってきたのですね。

・・・つながりたい。

ところで、作家さんの中には、自分の作品は全部大事にしまっておきたい!という方もいらっしゃるようですが、fuuyaan.さんは「絵が売れる」ということをどのように捉えておられますか?


A. 売れるということよりも、私の描いた絵が気に入ってくださる誰かのところに行くということが、やはり素直にすごくうれしいです。
自分の描いた絵が自分のところにあっても、さすがにそれを全部飾っておくのは難しいから、倉庫や押入れにしまい込むことになってしまいます。そうすると、誰にも見て楽しんでもらうことができなくなりますよね。でも、絵が望まれて誰かのところに行ったとしたら、いろいろな人の目に触れることができて、その絵はきっと喜びます。絵にとってはそのほうが幸せだと私は思うんです。


以前、私の絵を買ってくださったある女性のお宅にお邪魔したことがあって、そこで絵と"再会"したんですね。何年も前に描いた絵はどうしても記憶の中で薄れてしまうのだけど、飾られたその絵はその場所に本当にしっくり馴染んでいて、とても幸せな気持ちで胸がいっぱいになりました。絵はしっかりそのお家の一員になっていて、"まるで別人"なのだけれど、それがとてもうれしくて……例えるなら、お嫁入りして行った娘に久しぶりに会ったような感覚(笑)。
絵は描き終わった瞬間から別の道を歩み始めるんだと思います。そんなふうに旅を始めた絵と再会することは、とても幸せな経験ですね。
でもこういうことって、ただ、「買いました」、「買ってもらいました」という関係ではなかなか実現しにくいことなんじゃないかと思うんです。買っていただいて、「はい終わり」というのでは、私にとっては不自然な気がして……たまにでよいから、つながりを感じていたい。


Q. なるほど。「つながりたい」という、これは何か素直なfuuyaan.さんの本音をうかがうことができたようで、何だかうれしい気持ちになりました。また、その思いが、「できること交換」という新鮮なアイデアにつながってゆくようにも感じます。人と人とがつながるというのは、本当に不思議で素敵なことですよね。

『描きました』というよりも、『いただいた』という感じ。

続いては、ずばり個展というものについてお聞きしたいと思います。アーティストfuuyaan.にとって、個展とはどういうものですか?


A. やっぱり作品ができたら、まず見てもらいたいと思うんです。それで私の絵を見て幸せな気持ちになってもらえたなら、なおうれしい。昨年、今年もですけど、西表に行って"絵をたくさんもらった"ので。そのたくさんの絵たちを多くの方に見ていただきたい……そういう思いを込めたものですね。


Q. なるほど。「絵をもらった」というのは、素敵な表現ですね。


A. あっ……「もらった」と言うとヘンな感じがするかもしれませんね。誰にもらったの?って(笑)。
でも、私自身としてはやっぱりそういう感覚です。「私が描きました」というよりも、「いただいた」という感じ。
それで誰にいただいたのかといったら、それはやっぱり西表の海や空にいただいたというのが一番大きいと思うので。だから昨年の個展は、「向こう(西表島)で、こんなにすんばらしいものに出会ってきたんだよー!」って(笑)、家族や友達とか、絵を見てくれるみんなに報告する「お披露目会」だったような気がします。


Q. そういった意味で、昨年の個展のご感想はいかがでしょうか?


A. はい。まずは、多くの方たちが訪ねてきてくれたことを本当に感謝しています。場所もわざわざでないと来られないようなところだったのに、来てくれた方みなさんが本当に丁寧に私の絵一つ一つを見て、感じてくれました。カフェも設けたので、ゆっくりお話もできたし。
あとはやっぱり、このお家で個展ができたこと!
実は、一年経ってまた京都に戻って来たらいろいろと状況が変わっていて、もう昨年のようにこのお家で個展を開いたりすることも難しいそうなんです。「一期一会」という言葉があるように、そういうタイミングでやれた、させていただけたというのが一番ありがたくて幸せなことだったかなと。今となってはそう思っています。

天使が見えますね?

Q. fuuyaan.さんの作品が生まれて出てくるところ、西表島という場所にますます興味が湧いてきました。続いては島での生活や印象について教えてください。


A. そうですね。まずは、すごくシンプルです。毎日サンゴの海に潜って、上がってきて絵の具を置く……一番大きいサイズの二枚の絵はそのくりかえしで完成しました。朝、お日さまの光でアチー!と起きたら、海で拾ってきてアトリエに飾っておいた貝のとてもキレイなのが目に飛び込んできて、興奮してそのまま描き始めちゃう、とか。自然と戯れているか、自分の世界にいるか。すごくシンプルなんです。
京都もそうですけど、町にいると、カフェに行ったり本屋さんをのぞいたり、他に楽しいことが多過ぎて、放っておいたらなかなか絵を描かないんです。西表は小さな図書館はあるけど本屋さんはないし、買い物といえば小さなスーパー。いい意味で、それしかない。だから自然とも対話しやすいし、自分の世界にも入りやすい。絵を描くには素晴らしい環境だと思います。


Q. 海に入って、絵を描く。自然の中に、美を見出し、また描く。まるでおならをするみたいにすごく健全で、新陳代謝がよいとでも言うのでしょうか。この場合、心のほうの新陳代謝ですが。吸い込んだら、吐くという。


A. おならをする!(笑)
その例え、いいですね。ホントにそれくらいに自然なミニマル?という感じです。


Q. それにしても、毎日サンゴの海で泳げるというのは、私などからすると信じられないような環境です。マングローブなどもすぐ近くに見られるのでしょうか?


A.ええ。一年目は海のそばに住んでいたので、山や川よりも、海とより深く親しみました。海の中の世界は本当にすごいですよ!色とりどりで、様々な形のサンゴが複雑に組み合わさった森のような、でも山のようでもあるサンゴ礁……そのすき間にかくれたり。また、優々と泳いでいくカラフルで派手な模様の熱帯魚たちや、水中に差し込み辺りを輝かせる太陽の光。それらは言葉では表すことのできない世界です。海ガメとも一緒に泳いだんですよ!きっとどんな言葉をもってしても、あの世界を語り尽くすことはできないんじゃないでしょうか。私の絵でそのエネルギーを感じてもらうしかないかな(笑)。でも西表に来て実際に海に潜ってもらうのが、何よりも一番でしょうね!


Q. ……お話をうかがっているだけで、頭の中がサンゴの海の世界へ飛んで行ってしまっていました(笑)。
そういえば個展のDMに使われていた大きな作品がありましたよね。あの絵を会場で実際に見て、私は生命力あふれる南のサンゴ礁の海をイメージしたんです。それと同時に広がってきたのが、西表島の夏の空のイメージ。その二つがミックスされて私の中に浮かび上がってきました。


A. おもしろい。個展を見に来られた方たちも、それぞれにいろいろな感じ方をされていて、そのお話をうかがうのも楽しみの一つでした。そういえば、あの大きい絵を見て二人のお客さんが同じことをおっしゃって。「絵の左上に両脚を抱えて目をつぶって休んでいるような天使が見えますね」って。すごいでしょう!別々に来られたお二人に同じ天使が見えたらしくて。私には見えないんですけどね(笑)。
あとはご近所の公園でいつも気功のトレーニングをなさっている外国人の女性が「この絵とこの絵から、いい"気"が出てる!」と言ってくださったのも、印象的でした。


Q. 「天使が見える」と、「いい気が出てる」。(笑)
名言ですね。でもfuuyaan.さんの絵を見ていると、そういった感想もなんだか頷けてしまうような……いや、僕にも天使は見えなかったんですが。
(第一章終わり)

音楽療法士でもあるというロビン・ロイドさん。
毎日散歩の度に休憩に立ち寄るご近所のボンちゃん!
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